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最高裁判所第一小法廷 昭和61年(オ)1384号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人小林昭、同菱田健次、同菱田基和代、同北村巌、同北村春江、同古田伶子の上告理由第一点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点について

原審は、本件売買予約契約の解除に伴う被上告人からの支払金の返還請求に対して、右契約の履行として上告人株式会社青木建設が買い受け被上告人のために所有権に関する仮登記を経由した各土地につき、右仮登記の同上告人への移転登記あるまで支払を拒絶する旨の上告人らの抗弁について、上告人らにおいて各土地を特定したうえこれに対応するそれぞれの具体的な金額の主張、立証をしないことを理由として、これを排斥している。

ところで、民法五四六条は、双務契約が解除された場合に契約当事者の有する原状回復義務及び損害賠償義務相互間には、その全部につき牽連関係があることから、同法五三三条の規定を準用したものであるから、双務契約当事者の一方が契約の解除に伴い負担する当該義務の内容たる給付が可分である場合において、その給付の価額又は価値に比して相手方のなすべき給付の価額又は価値が著しく少ない等、相手方が債務の履行を提供するまで自己の債務の全部の履行を拒むことが信義誠実の原則に反するといえるような特段の事情が認められない限り、同時履行の抗弁をもつて履行を拒絶することができる債務の範囲が一部に限定されるものではないと解するのが相当である。

したがつて、原審が、同時履行の抗弁をもつて拒絶することができる債務が反対給付の価額に相当する一部に限定されることを前提とし、その特定がないことを理由として、上告人らの抗弁を排斥したことは、違法たるを免れない。

しかし、被上告人は契約解除に伴う支払済みの金員の返還請求債権及び損害賠償請求債権の内金として支払済みの金員に相当する金銭の支払を請求するものであるところ、原審の適法に確定した事実関係によれば、被上告人は、原審が認容した支払済みの金員の返還請求債権のほかに、上告人らが同時履行を求める給付と牽連関係に立ち、かつ、その価額を超える債権を有することが認められるのであるから、上告人らの前記抗弁を排斥した原審の判断は結論において正当であり、前記違法は判決の結果に影響を及ぼすものではない。

(裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 角田禮次郎 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 四ツ谷 厳 裁判官 大堀誠一)

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